プレイヤーが入れ替わり
クラウド化、DX推進が定着
――このような対談は、設立30周年を記念した記事以来10年ぶりです。
この間、日本のソフトウェア産業において印象的だった出来事や、業界の変化についてお聞かせいただけますか。
田中:
最も大きな変化は、業界におけるプレイヤーの入れ替わりが顕著になったことです。かつては国内の大手メーカーが日本のIT産業を主導していましたが、次第にネット系企業やSIerなど、ソフトウェアビジネスを主体とする企業が業界の中心軸になってきました。IT業界がハードウェア主体からソフトウェア主体の産業へ移行するとともに、クラウド化、AI化の流れの中で新しい勢力が次々に登場していると感じます。一方で、大手のハードウェアメーカーの時価総額は依然として高く、数倍に伸長した例もあります。日本のIT業界が本気で変わり始めた兆候かもしれません。
もう一つは、「儲け方」の変化です。国内のIT産業は成長を続けていますが、伸びる勢いは2022年ごろが一つのピークだったと言われています。従来のITビジネスは少しずつ下降が始まり、代わりに台頭したのがコンサルティング、クラウド、そしてAIです。情報システムの導入はもはや当たり前になり、それ自体では収益性の高いビジネスを展開するのは難しくなりました。今は、お客様の課題に深く入り込むコンサルや、クラウド、AIの活用といった付加価値によって収益を上げる構造へと変わってきています。
私がSAJに入会したのが10年ちょっと前ですが、当時は「クラウド化すると既存事業の売り上げが下がる」といった雰囲気が業界にありました。しかし、今やその結果は明らかで、クラウドに舵を切った企業はこの10年で大きく成長しました。
加えて、教育です。10年前はそこまで注目されていませんでしたが、最近は技術者教育が非常に重視されています。自社サービスの認定資格制度を用意しているクラウド事業者もありますが、そのような制度は事業者のシェア拡大に大きく貢献していると思います。
――モノ売り(プロダクト思考)からコト売り(サービス思考)への転換の必要性は、
10年以上前から言われていましたが、その変化が具体的に見える形で表れたのがこの10年で、
実践した企業は成長を遂げたというわけですね。
田中:
SAJの歴史を振り返っても、和田成史元会長・現名誉顧問(株式会社オービックビジネスコンサルタント代表取締役社長)の時代に「パソ協(日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会)」から「CSAJ(コンピュータソフトウェア協会)」へ名称を変更し、ASP、つまり現在で言うクラウドサービスを中心とする方針を打ち出しました。当時は会員企業が減少し厳しい時期でしたが、その後底を打ち、荻原紀男前会長・現名誉会長(株式会社豆蔵インベストメント代表取締役会長兼社長)の時代に、クラウド化の後押しと社会に対するロビイング活動を強化しました。当時はまだハンコが当たり前の時代でしたが、そこからクラウド化やデジタル化を推進し、2021年にはデジタル庁が発足しました。
ただ、足元を見ると外資系サービスへの依存度が高くなっており、単にクラウド化すれば良いというわけではない状況です。今後は、この2、3年で高まっている、国産ソフトウェアで黒字を生み出すムーブメントをさらに強くしていく必要があります。この10年の変化を経て、日本のソフトウェア企業も世界で自信を持って戦える土壌がようやくできてきたと感じます。
――青野さんにとっての10年前は、まさにクラウドへ大きく舵を切られたタイミングだったと思います。
青野:
当社の話で恐縮ですが、2015年から2025年の間に売り上げは5倍強に成長しています。これはまさにクラウドにコミットし、その波に乗って伸びた結果です。この10年は、社会全体がクラウドに向かっていった時代でした。その過程で生まれた変化として、かつてのコンピューターメーカーがハードウェア事業を縮小し、サービスやコンサルティングへ軸足を移した一方、ITインフラは外資に依存するようになりました。それだけに、さくらインターネットの田中さんには、国産クラウドとして頑張っていただきたいですね。
一方、顧客側の変化で大きいのは、「DX」という言葉が完全に定着したことです。当初は“バズワード”かと思われましたが、10年を経ても使われ続けており、日本企業に「トランスフォームしなければいけない」という意識が根付いたのは大きな変化です。その背景には、労働力人口の減少による深刻な人手不足があります。そして、コロナ禍が社会のデジタル化を後押ししました。リモートワークが強制的に導入され、小学校のPTAの会議ですらオンラインで開くようになり、社会全体でデジタル技術を使わなければならないという状況が生まれました。
――従来と比べて、ユーザー企業側のITに対する期待にも何か変化を感じられていますか。
青野:
クラウドの柔軟性、迅速性を活用した上で、ローコード/ノーコードの技術や、最近は生成AIを導入することで、IT部門ではなく現場が主体となるソフトウェア開発が可能になりました。IT人材不足を補うことにもITを活用しようという動きは、新しい潮流だと感じています。
この10年で面白かったのは、プログラミング教育ブームです。一時期は「誰もがプログラミングを学ぶべき」という風潮がありましたが、生成AIの登場でその潮目が変わりつつあります。米国でも大手IT企業が技術者の採用を抑制するなど、プログラミングスキルがあれば安泰という時代ではありません。学ぶべき対象としてのプログラミングの位置づけが、この10年で大きく上がって下がった、という印象です。ITを使いこなすスキルはますます重要になっていますが、今はその中で「何を学べばいいのか」を皆が模索している、少し混迷の時期に入ったのかもしれません。